日本語クラスの型(15)継承語教育としての漢字習得プログラム(2)漢字個別の学習体系が必要な理由

日本語を継続して学習するには、漢字学習は不可避です。

しかし継承語学習者にとって最大の障害は漢字学習です。

この問題にどう対峙すればいいのでしょうか。

まず「漢字個別のプログラム」が必要です。

どういうことかと言いますと、

以前は、テキストから語彙を拾い、そこから習うべき漢字を抽出してました。

しかしこのやりかたのデメリットは、漢字の知識が蓄積されないことです。

テキストから漢字を抽出していると、

前に習った漢字と、今習っている漢字に何の共通点もないので、

生徒の頭には、漢字知識が積み上がっていきません。

このやりかたでは、暗記するしか方法がありません。

国語教育では、このやり方でもいいかもしれませんが、

継承語教育では、このやり方は全くダメです。

国語教育では、教育漢字(1,006字)にのっとって、

小学校で習うべき漢字が学年ごとに定められています。

国語の教科書もこれにのっとり、漢字がチョイスされてるはずです。

しかし、継承語教育、なかんずく僕のJSL(日本語が第2言語)クラスでは、

まず真っ先に、テキスト選びに困難を極めます。

学年がバラバラ、日本語レベルもバラバラ、ニーズもバラバラな中、

統一したテキストを選ぶのは、不可能に近いからです。

「テキストから漢字を抽出するやり方は捨て、漢字個別の学習体系が必要だ」

そう思いました。

ここで自分の考えを書き出してみました。

継承語教育クラス、特にうちのクラスのように、
漢字が苦手な生徒たちに効果的な学習体系があり、かつ面白く、
学習意欲を掻き立てるようなプログラムはできないか?

●国語教育ではなく継承語教育である
●漢字個別のプログラムである
●書き順は問わない
●視覚的学習プログラムである
●知識積み上げ式である
●反復練習できる
●アクティビティがメインである

さて、どうしたものかと色々文献にあたっていると、

幸運にも、一冊の本に出会いました。

『漢字はみんな、カルタで学べる』伊東信夫、宮下久夫著。

この本のプロローグにはこうあります。

「もともと、漢字のしくみにそくして学ぶなら、漢字ほど学びやすいものはなく、漢字ほど学んでおもしろいものはないのです。それにまた、漢字ほど遊びで楽しく学べるものはないのです。漢字とはそのような性質をもった文字なのです。」(p10)

漢字学習のプロセスを、ここまで肯定的に述べたものを見たことがなかったので、

とても驚きました。と同時に興奮しました。

「漢字の成り立つしくみにのっとって遊びで楽しく漢字を学ぶために、わたしたちは、つぎのような三つのカルタを考案しました。」(p10)

【101漢字カルタ】
【98部首カルタ】
【108形声カルタ】

つまり、書き順がどうのこうとか、

テストのために暗記して覚えなきゃなんないとか、

強制的非生産的な手段で学習するのではなく、

「漢字の成り立つしくみにのっとって」遊びながら学べるなら、

子どもは「自学自習にすすみだす」というわけです。

この考え方は僕のそれと全く合致していました。

ここにカルタそれぞれの特徴を書きます。

【101漢字カルタ】
絵と唱えことばがある101枚の「よみ札」と、古代文字とそこからできた漢字がある101枚の「とり札」で構成。日本の常用漢字1,945字のうち、単体の文字は270個(全体の14%)。この270個から代表的なものを101個抽出している。さらにこの中から78個が「部首」になる。その78個の部首で1,337字が作られている。これは常用漢字の実に69%をしめている。

【98部首カルタ】
部首とは漢字を構成する親となるもの。部首は220個ほどあるが、そこから主要なもの98部首を選定。この98部首から1,681字ができあがる。常用漢字の実に86%だ。ほとんどの漢字は、2つ以上の基本漢字のあわせ漢字なので、ここで部首を学ぶことで、漢字全体の世界観が学べる。

【108形声カルタ】
「形声」文字とは、部首(意味記号あるいは音符)と音符(音記号)の2つの部分からできているもの。例えば「白」を音記号としてみれば「ハク」と読む。ここからできた漢字は「宿泊」「船舶」「迫力」「拍手」「紅白」と「白」がついた漢字は「ハク」と音読みする。その漢字を知らなくてもこの音記号を知っていれば、その読み方となる鍵がわかる。漢字全体で約300個ほどの音記号があるが、そこから108個を厳選。

僕の日本語学校は、週末のみでイベント等も多く、

50分1コマとして、1年に70コマしかありません。

上記すべてのカルタをやってみたいところですが、

漢字ばかりにそこまで時間を割けません。

そこでこの中から98部首カルタをやってみようと思いました。

98部首から1,681字、常用漢字の86%ができているということで、

授業ですべての漢字をフォローできなくても、

将来的に子どもたち自身が自学自習できる基礎を

クラス内で提供できることはとても大切だな、

と思ったからです。


(つづく)

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